ブログ小説『異世界勇者が気に入らねーからぶっ飛ばす』2

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 初めてのインタビューに成功したあたしは、調子に乗って(乗せられて)ほかの人たちにもインタビューするようになった。

 この世界の一大勢力、冒険者。

 彼らは異世界からやってきて、特殊なスキルを持つ。「ステータス」とか呼ばれてる。ステータスを持っているおかげで、魔法が使えたり、魔物の攻撃に耐えることができたりするらしい。そんなことより、おいしいケーキ食べたいな。

 ステータスには職業が設定されていて、
 「剣士」
 「魔法使い」
 「治癒術師」
 「格闘家」
 「槍使い」
 「弓使い」
 などなど。

 得意な武器や魔法によって分類されているらしい。
召喚された時に決まるんだって。難しいことよくわかんない。

 一応、それぞれの職業の人にインタビューしたんだけど、覚えてなーい。

 剣士「俺は剣が得意」
 魔法使い「魔法が得意」
 治癒術師「治癒術が」
 格闘家「体術が」
 槍使い「自殺が」
 弓使い「ゆm」

 もう、こんな感じで個性ってものがないんですもの。個性が埋もれてコモディティ化しちゃったら、ビジネスとして成り立たせるのは難しい。って、偉い人が言ってたゾ。

 不思議なことにステータスを持っているのは召喚された人だけで、あたしたち一般人にはステータスは身につかない。持つ者と持たざる者。世の中の不条理を感じるんだけど、ステータスを持っている人は魔物と戦う義務がある、ってことでノブレス・オブリージュ。

「いざとなったら私たちが村を守りますから」

 そう言ってくれるのはいいんだけど、いざという時なんて本当に来るのかな? 来るぞ……来るぞ……詐欺だったりしない?

「その時にはぜひよろしくお願いしますね、勇者様」

「ああ、任せてくれ」

 心の中は隠して、素直にしておいたほうが後々得しそうだもんね。正直、あんまりノブレスには見えないのだけど。毎日酒場で飲んでる姿しか見てないし。

「お酒、好きなんですか?」

 つい聞いてしまった。

「お酒? いやー、個人的にはあんまり好きじゃないんだけど、みんなが飲んで楽しくなってる雰囲気が好きでね」

 あー、めんどくさい。

「そうなんですかー」

「良かったら一緒に飲む?」

 あ、うぜえ。でも聞いちゃったあたしの責任だよね、仕方ない。

「ごめんなさい、一緒には飲めません。まだ未成年なのであたし。その代わりに、友人を紹介します」

 どうだ。ステータスは持っていないけど、「お断り」のスキルは使えるんだぜ。
あたしの代わりに、レオナルド、レッツゴー!

「それなら飲まなくても、友人と一緒に来るかい?」

 ……お断りが完全に入ったのに。くっ、ならばもう一度!

「ごめんなさい。そういう雰囲気が苦手なので、お断りいたします。
友人は飲めると思うので、よろしくしてあげてください」

「そっか。それは残念(笑)」

 あれ。もう1回は来るかと思ったんだけどな。意外とチキンなのかしら。今夜はチキンカレーよー!

「見た目よりも子供だったんだね」

 む、唐突な子ども扱い。なぜ?

「取材する相手に敬意を表すのは、大人として常識。
相手からの提案にはできる限り乗っかるのも大人の常識。
それができていないということは、
君には大人としての自覚が足りてないね」

 なんだぁ? うっとうしいな。
 説教おじさんか?

「あ、失礼。伸びしろを感じたものでつい、言い過ぎてしまって。
大人ではなかったね。仕方ないね。
取材、頑張ってくださいね、お嬢様」

「はぁ、どうも」

 なんだか、馬鹿にされている気がする。
大人ぶりやがってー。
 とはいえ、あたしだって大人。
そこは心を表に出さず、冷静に対応する。

「貴重なアドバイスありがとうございます~。
あなた様にもう少し取材させていただいてよろしいですか?
取材させていただけるなら、『いいこと』いたしますよー?」

 相手の左手を両手で包み、少し上目遣いで見ながら話す。
シャツの第2ボタンまで外したりして胸元アピール。
このオファーは断れないだろう。
情けなく引き受けるがいい!
結構このお兄さんかっこいいしね。

「……君はもっと、自分を大切にしたほうがいい。
体なんてこんなところで安売りしていたら消耗してしまうよ」

 こんなところで正論。
欲望に素直になれないなんて、つまらないやつ。

「いいこと=体を売ることだなんて、誰が言いました?」

 せめてもの反撃。
いったい何を勘違いしてるのかしらー?

「あぁ、ごめんごめん。私の勘違いだったね。ハハ」

 あっさり認める。
 本当につまらない。

「というか、『いいこと』なんてしていただかなくても協力するよ。
この世界にはお世話になっているから」

 何をどうお世話になっているのかわからないけど、とりあえずあたしは取材をすることにした。

「何をどうお世話になっているんですか?」

「まず転生したときに、すばらしいステータスとスキルを授けてくれた。
それに、素晴らしい仲間にも出会えたし、守りたいものも見つかった。
元の世界では得られなかったよ」

 仲間、いたんだ。一人に見えたけどなぁ。

「どんなステータスとスキルだったんですか?」

「それは企業秘密かな」

「では素晴らしい仲間とは? どこにいるのですか?」

「今は少し、遠いところに。必死でやっているよ」

「魔族の討伐ですか?」

「まぁ、そんなものかな」

 インタビューがつまらなくなってきて、早々に切り上げたあたしは、酒場の外の通りへ出ていた。優男の冒険者とは別れている。石畳の大通り。町明かりの中を足早に歩いていく人々。その中に、冴えない男が一人いた。

 武器を腰にぶら下げた冒険者風の男だ。あたしはそいつの後をこっそりついていく。曲がり角をふたつ曲がったタイミングで声をかけた。

「おにいさ~ん。ちょっといいことしない?」

 ロングスカートの裾を、太ももの中頃までたくし上げて。
壁際に追いつめて、片手を壁につきながら。

 あたしのちょっとした小銭稼ぎ。今夜のご飯はチキンカレーよ!

……

 白くほっそりとした腕。ガリガリではなく、ほどよく筋肉がついている。下を向けば、ふっくらとした胸の左側にほくろが一つ。その先の腹筋は、縦に割れ目がうっすら入っている。

 ナイスバディ。うん、あたしはやっぱりかわいい。子どもなんかじゃない。大人の体だ。

 えーと、昨日はなにしたんだっけ?

 部屋のごみ箱に、使い終わったコンドームがある。数年前、コンドームを作るスキルを持った冒険者があらわれた。それまでは気楽に性行為をすることはできなかった。妊娠したり、病気に感染したりするリスクが高かったからだ。

 0.01ミリ。薄いゴムの膜は、安全な性行為を世に普及した。小さな突起がついているものもあり、使用することでより大きな快感が得られる、という人もいるとかいないとか。

 あー、思い出した。

 小遣い稼ぎと称して好きでもない冴えない男と寝たんだっけ。あたし別にお金に困っているわけじゃないのに、どうしてそんなことしてるんだろ。ま、いっかー。結構気持ちよかったし。

 男が隣ですーすー寝息を立てている。真っ黒で太めの髪の毛は、自分で切って失敗したのか前髪がぱっつん。頬にいくつかニキビがある。幼い顔が少しかわいく思えて、ほっぺたをつついた。

 ごろん。

 男は寝返りを打った。その背中を、なぜか蹴飛ばしたくなった。


タイトル案
・槍使いは自殺がお好き
・10代男女におすすめのコンドーム3選
・飲み会の正しい断り方
・大勇者様の勘違い
・蹴りたい背中

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