人間は間違った存在であり滅びるべき

お元気ですか、
アセンブリック教団代表
河西数真()です。
アセンブリック教のご紹介はこちら。

こんなお話を考えました。

 将来の自分が見える。
 引きこもって無気力で、
 他者からの支援の手を
 払いのける姿。

 彼は他人には救えない。

 彼に救いの手を差し伸べるのは……

しがない画家、
Kの破滅の物語。

ショートショート 『Free Warp アプリ』

自立した人でありたいという願いが自立を妨げる

友人の来訪から数日、
Kは悩んでいた。

「お前も早くワープアプリ入れろよな」

そんな友人の一言について。

素粒子情報転送システム、
FreeWarpアプリによる、
自由な移動ができない人間は
今や社会的弱者として見られている。

生活必須品の運送も、
ワープ頼りであり
なんらかの理由でアプリが使えない人たち、

体が弱くワープの負荷に耐えられない、
アプリの使い方が分からない、
ワープアレルギー、
信念によるワープ拒否、

などの人たちには、
生活してくために
他者の支援が必要となる。

Kがワープアプリを入れない理由は、
最後のものが近い。

「人は、自分の足で進むべきじゃないのか?」

ワープに【依存】している社会への疑惑。

大きな声で反対意見は言えないが、
友人の提案に対しては、

「もう少し自分でなんとかしてみるよ……」

と返してきた。

ワープアプリを入れれば、
仕事も受けやすくなり、
生活も楽になるのに。

Kなりに、
【自立】した人でありたい
という願いだった。

その願いは時に、
社会に依存しなければ
生きていけない自分
という現実を曇らせる摺りガラスとなる。

社会への疑惑は、
【弱者の嫉妬】、
哲学者ニーチェの言う
【ルサンチマン】だった。

嫉妬の魔女

ワープアプリを
インストールする画面をタップし、
閉じるボタンをタップする。

Kが食事もとらずにそんなことをしていると、
部屋の扉を叩く音が聞こえた。

「こんにちはー」

来客など面倒だと思いながらも
扉を開けてみると、
そこには一人の女性がいた。

腰あたりまである長い黒髪。

ワープする時には
体にピッタリフィットする
専用のワープスーツを着ているはずだ。

どこかで着替えてきたのだろう。

薄墨色のゆったりしたローブに
編み上げのブーツ、
なぜか杖を持っている。

どこか神秘的な雰囲気をもつ彼女を、
絵に描きたいと思ったKに対して、

「アセンブリック教団のものですぅ。
あなたも入信しませんかぁ!?」

勢いよく話し始める彼女。

……

Kは扉を閉めた。

「あのぉ!? ちょっとぉ!
話だけでも聞いてくださいよぉ」

迷惑な話である。

大抵この手の宗教勧誘は、
相手が納得するまで話をやめない。

分かり合えないということが分からない。

そういう人間に限って、
【相互依存】だなどと
高尚な言葉を使う。

【心理モデルの話】だ。

結局自分の価値観を
押し付けているだけなのに。

「そういう話は結構ですので」

「むむぅ、それなら……」

続く言葉は聞かず鍵を閉める。

さて、と部屋に戻ったKの前にいたのは、
先ほどのローブを着た女性だった。

「え?」

いつの間に。

ワープを使ったのだろうか?

ワープを使うなら、
専用のスーツを
着用していなければならないはずだ。

Kがそんなことを考える間に、
彼女は話を切り出す。

「ふふん、ワープくらい簡単です。
嫉妬の力でなんでも解決☆
嫉妬の魔女とは私のことです!」

「はぁ……とりあえず。
土足で上がらないでもらえますか?」

「あ、私としたことがごめんなさい!」

慌てて靴紐をほどき、
編み上げブーツを脱ぎ始める彼女。

やはり一方的に話してくる。

たちの悪い宗教勧誘だ、
とKは思いながら眺めていた。

「宗教の話ならお断りですが」

「Kさん。あなたにとって良い話があります」

人の話を聞いてはいない。

土足で踏み込まれた7畳の部屋で

土足で踏み込まれたなら、
力で追い返すのが本来の対応だが、
今のKにそれほどの気力もなかった。

そのため、
素直に話を聞いて
満足してもらって
さっさと帰ってもらうことにした。

「あなたには大いなる力があります。
そう、【神をも作り出す嫉妬の力】です」

早く帰ってくれと思いながら
Kは話を聞いている。

「正しく嫉妬の力を使えば、ほら」

といって耳を両手で覆い隠す。

「こんなこともできます」

両手が開かれたそこには、
エルフのような長い耳があった。

「どうですか、どうですか!
エルフ耳になっちゃった!」

「昔、そういう芸人いましたよね」

といいつつも、
エルフ耳に少し心惹かれた自分が憎らしい。

「あなたの考えだって分かっちゃいますよぉ」

「やめてください」

「ふむふむ。
自立した人でありたい
とお望みで?」

「あぁ、そっちの考えですか」

「そっち?」

「いえ、なんでもありません」

「まぁいいでしょう。
【人は自立などできない】
というのに、
あなたはそれを望むのですね。
【大罪】仲間の一つ、
傲慢の要素もお持ちのようで」

「自分の足で前に進みたい、
と願うのは人として当然でしょう。
【人の心は間違っている】とでも?」

傲慢と言われ、
つい言い返してしまった。

「いいえ、間違っていません。
願いが嫉妬を生むこともありますし。
ですが、
善き人でありたいという願いは
嫉妬の力を【封印】してしまいます」

「……」

話が長くならないようにと、
反論を言いたいところをKは耐えていた。

「古の書物にも書いてあります。
自立するときには悪の感情を利用せよ、と」

怪しいタイトルの本を取り出しながら言う。

「それに、
【宇宙の法則】の前では
すべての人間は弱者であり、
宇宙の法則に依存して生きています」

「はぁ」

「だってそうでしょう。
植物が育たなければ
野菜もお米も食べられない。
動物が大きくならなければ
肉が食べられない。
食べたものを消化する仕組みがなければ
人間は生きていけないんですよぅ?
それって依存してると言えますよね。
自立したいというのは、人間の傲慢。
それを自覚せず、
善き人でありたいと願うなら、
自らブレーキをかけているのと同じ。
本来の嫉妬の力が発揮できなくて
当然なのですよぅ」

早口でまくしたてられる。

はぁ。これだから新興宗教信者は。

「もちろん、それを知ってなお
善き人でありたい
と願うのも人間ですよね」

いつの間に取り出したのか、
牛乳を飲み始める。

「それで一体何を言いたいんですか?」

流れが滞りそうだったので、
話の先を促す。

「おぉ。興味を持っていただけましたか」

「いえ違います」

「いやぁそれはそれは」

「……」

話が通じない。
Kは心を閉ざした。

ふと窓の外を眺める。

女が何か話していたが、
Kの耳にはもう入らない。

外では【建設工事】が進められていた。

ワープを使って、
次々と資材が運び込まれていく。

重量物ですらも軽々と。

ワープを使えば同じように、
人の命、自分の人生までも
軽くなりそうに思えるのだった。

空を見上げる。青い。

青の向こう側には、
かつて暮らしていた宇宙がある。

人間同士の生存競争に勝てず、
地球を追われ宇宙で暮らすようになった
【木星帝国】。

Kはその一員だった。

ジュピターエンパイアのハグレモノ

かつて地球から追放された人類は、
宇宙に生活圏を求めた。

地球ほどの恵まれた環境はなく、
食料問題、エネルギー問題、
居住スペースの問題、
空気と水の問題、
資材はいつも不足していて
問題は尽きなかった。

およそ1世紀。

暗い宇宙で
物資を求めて彷徨う彼らの生活は、
拠点とする木星のガスのように
安定しないものだった。

そんな彼らにも技術革新が起きる。

宇宙船内での栽培技術、
大気の合成技術、
巡航速度の大幅な改善、
木星の重力を利用した資材の採集。

そして何よりも、
それらの革新を支える
エネルギー革命。

木星に存在する液体金属水素の
安定した採掘と利用に成功したのだ。

生活が安定すれば、人口が増える。

人口が増え過ぎれば、
限られた資源を巡って競争が起こる。

そこでもまた、
競争に破れ、
居場所を追われる者たちがいた。

少数が小型の宇宙船で木星圏外へと逃れた。

Kはその一人。

1世紀の間に人口を減らした地球へ、
居場所を求めてやってきた。

ワープなど使わず、
宇宙船を自ら操縦してきたKにとって、
ワープ技術とは
それまでの自分たちの苦労を
否定するもののように感じられた。

「どこまで行っても人は間違えるか……」

青の向こうの黒を回想しながら
Kは絶望を感じていた。

「(ならば、いっそ……)」

木星帝国のハグレモノ、
強者の道徳からも
弱者の道徳からも
はみ出してしまったKの心の内が、
嫉妬の魔女に伝わったかどうか。

それは傍目には分からなかった。

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