お元気ですか、
アセンブリック教団代表
河西数真(かわにしかずま)です。
⇒アセンブリック教のご紹介はこちら。
昨日と同じ今日。
今日と同じ明日。
変わらぬ穏やかで退屈な
日だまりのような日常に
人知れず異物が紛れ込む。
人を知りたいと願った少女。
願いは歪み、
世界をも歪ませていく。
歪んだ道を歩み辿り着く先は、
果たして望む目的地か、
それとも望んだ以上のものか。
あるいは……?
ダブルクロスThe 3rd Edition
『Long, Wrong, West』
ダブルクロス――それは裏切りを意味する言葉。
青空エアコン
「あかん、あかんわ」
湿気と熱気を含んだ密度の高い空気に肺を焼かれて、空が質量を持って押しつぶしてくるような、梅雨明けの猛暑。少女が一人つぶやきながら、木陰のベンチに座り込む。
「暑すぎてあかん。こんなん”力”使うしかないやんけー」
がくりとうなだれる少女が瞑目し、息を吸い込む。肺に入った空気の熱は、自然の摂理に背いて移動する。少女の次の吐息は、凍えるように冷たく、粘膜のように彼女を覆い、火照った体の熱をすばやく奪っていく。
レネゲイド。
背教者の名を持つウイルスは、今や世界に蔓延し、感染者には人外の力を与えている。彼女に発現した”力”は、熱を操る類のものだった。サラマンダーシンドロームと言われる。
便利な”力”であり、多数の感染者が存在しているが、それでもウイルスの存在が公にならないのは、力に溺れた感染者は理性を失い、欲望のままに力をふるう怪物――ジャームとなるからだ。
感染者の辿る末路が民衆に知られれば、かつての魔女狩りのような迫害、黒死病のような隔離、パンデミックによる経済の大混乱が予想される。
世界を守るために真実を闇に葬る組織がある。
何も知らずに、知らないからこそ、平和な日常を過ごせる者たちがいる。
彼女はそのどちらにも属さない、少し特殊な存在。
「あ゛ー、快適やわ……」
街中のベンチに堂々と座り、背もたれにのけぞり空を見上げて喚くその姿は、小柄で美人という以外は何ら変哲のないティーンエイジだ。言動は少しおかしなおっさんのそれではあるが。
「少し、よろしいですか?」
街行く人々の中から10歳前後の少女が話しかける。黒いブラウス、肩あたりで切りそろえられた黒髪。背丈に似合わず表情は大人びている。
「おぉ? 都築の嬢ちゃんやないけ。暑いやろ、まぁこっちおいでや」
ベンチの隣をポンポンと示し、座るよう促す。「では」と、ティーンの少女と幼女が隣に並ぶ。姉妹には見えない。
「ワイの近くは涼しいやろ。で、どないしたんや?」
腰に手を回し、吐息が耳へかかるほどの距離で囁く。傍から見れば密着して暑そうだが、本人たちは涼しかった。
「イントネーション。語尾のリズム。一人称。相変わらずのエセ関西弁ですね」
涼しい顔をして幼女、都築京香が言う。
「なんやて……!?」
「いいのですよ。あなただけの関西を追求すれば。それがあなたにとって、本当の関西なのですから。私もまだ、人間についてはお勉強中です」
ふふ、と冗談めかして笑う。
「ワイだけの関西、か。ええなぁ。ふふん、そやな。本当の関西はワイだけのもんや。同類から言われたら心強いわ」
顔を近づけて語る少女たちは、レネゲイドビーイング(RB)という存在。
ウイルスが進化し、知性を持つに至った生命。人間の紛いもの。人間を理解したいと願いながら、根本的に人とは違う精神構造であり、分かり合うことはできない存在。
そうであっても進化した先に新たな可能性を見出そうとしているのが、都築京香という人物であった。
「さて、今回内宮さんに頼みたいのはある人物の抹殺です」
表情一つ変えず物騒な話題を切り出す。
「その人物の名前は小此木信一。賢者の石を集める白衣の集団、FHセル”白鴉”のA市支部トップです。彼は特殊な薬物を使い、RBをとらえ賢者の石に変えています」
「ほーん? いけすかん奴やなぁ」
「あなたの目指す関西への障害ともなることでしょう」
「……ま、都築の嬢ちゃんの頼みなら聞いてやらんでもないわ」
「そう言ってくださると思っていました。こちらが件の人物です」
と、写真を渡す。白衣を着た痩せぎみの男が写っていた。
「こいつがか? 辛気臭い男やな。ま、えぇんやけどな。えぇんやけどな?」
「なにかご質問が?」
「40や」
「……」
「たこ焼き40個、おごってーな。あとミックスジュース3本くらい」
「……私の右手にぶら下がっている袋がみえますか?」
みると、なぜ今まで気が付かなかったのか大きなビニール袋を右手からぶら下げている。漂うソースの香り。袋にはCの文字が大きく印字されていた。
「それはもしや、伝説のCタコやんけ!?」
「えぇ。ですが40個とは。私の想定が外れましたね」
「たまにはそんなこともあるわな。ま、一緒に食べよーや。って、50個あるやん」
「ふ」
「ドヤ顔しよるでこいつ……。まぁええわ。ほな、10個あげるわ。あ、ちょいまち」
というと、1箱取り出し蓋を開け、ふーっと息を吹きかける。たこ焼きは焼き立てのようにホカホカに。
「これで食べ頃温度やで。ついでにミックスジュースもな」
こちらはほどよい飲み頃の温度に冷える。そしてお互い並んでたこ焼きを食べ、おいしそうにミックスジュースを飲む。その姿はとても人外には見えなかった。
食べ終わり、都築京香は一言残してその場を去っていく。
「それでは新たなプランを開始しましょう」
「F.E.A.R.」及び
「株式会社KADOKAWA」が権利を有する
『ダブルクロス The 3rd Edition』
の二次創作物でした。
そしてGMする時
いつも遊ばせていただいている
misakaさんのシリーズシナリオ
『True self』
の舞台設定を使わせてもらいました。
本当はシナリオ作れれば良かったんですけどね。
コメント