トライアスロンにかけた青春物語―『アイアンマン』(クリス・クラッチャー)

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この小説は、単なるトライアスロン小説ではありません。

困難な現実に向き合う高校生たちの成長物語であり、愛と慈悲の物語です。ヤングアダルト小説ですが、大人の私が読んでも楽しめました。

あらすじを紹介します。

ボーリガード・ブルースター17歳。州で有名なトライアスロンレースに出場するため、日々過酷なトレーニングを続けている。しかし、ある日ボーリガードを「腰ぬけ」呼ばわりした教師のレドモンドに反抗し、停学寸前になってしまう。罰として入れられた短気矯正クラスは、荒っぽい問題児が集まる特別学級。はたして、高校生活最後のレースの行方は……!?

主人公たちは短気矯正クラス=アンガーマネジメントクラスにて、自分の悩み・心と向き合っていきます。

  • 問題は何なのか
  • なぜ感情を制御できず、短期的行動をしてしまうのか
  • 怒りの正体とは
  • 真実の愛とは

この辺り、心理学や自己啓発的な内容です。教師であり、セラピストだった著者だから書けるのかもしれません。

さらに、登場人物たちの関係性に、歪んだ愛と憎しみが描かれます。

  • 親と子
  • 先生と生徒
  • コーチと選手
  • 「短気矯正クラス」の仲間

どうして、人は分かり合うことができないのか、考えさせられます。

特に、親と子の関係は重大です。

部活にのめり込めば、「お前には才能がないからやめておけ」

音楽を始めても、「やっても無駄だ」

ゴルフをしても、「時間の無駄だぞ」

ブログを始めても「時間の無駄なんだから、のめり込み過ぎるなよ」

息子が何かに熱中するといつも反対する父親というのは、多くの家庭で見られるものなのかもしれません。

いつも枕詞は、「お前のために」

『魂の殺人―親は子どもに何をしたか』の著者、アリス・ミラーによると、「お前のために」という言葉はたいてい、相手のためにならないことをするときに使われます。

「自分も苦労したんだから、お前も苦労しろ」

そんな、無意識の気持ちが歪んだ愛となって表れるのです。

歪んだ愛を受けて育った子は、自分の子にも歪んだ愛を示しやすいといいます。

それを防ぐには、全てを肯定して受け入れること。それが、慈悲です。

なかなかできることではありません。

なぜタイトルが『アイアンマン』なのか。

トライアスロンは、距離が長くなるほど内面の勝負になってくるといいます。

筋肉疲労の問題から、水と栄養を素早く吸収して体を動かすエネルギーに変える内臓の勝負へ。競技時間が10時間を超えるようになると、食事・排泄と生活が競技の一部になっていきます。

最後には精神面の勝負になり、自分に打ち勝った者だけが「アイアンマン」の称号を手に入れる……

全てを肯定して受け入れる心の強さと、アイアンマンの精神面の強さをかけているのだと思いました。

主人公の、「一日も早く、本物のアイアンマンになりたい」というセリフの意味が、より深く感じられます。

 

作品中で紹介される本。

お読みいただき、ありがとうございました。

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