樺沢紫苑『父親はどこへ消えたか―映画で語る現代心理分析』

お元気ですか、かにかまです。
かにかまって何?⇒プロフィールはこちら。

最近、親子関係に関する本を読んでいます。

そのうちの一冊、『父親はどこへ消えたか―映画で見る現代心理分析』は、心理系のブログで紹介されていて興味をもったので購入しました。

「父性」をテーマにした本

この本は、精神科医であり映画評論家でもある著者が、「父性」という視点で映画を語る本です。

著者がこの本を書こうと思ったきっかけは、精神科医として患者と接する中、「頼りになる父親像」がなくなってきている、と感じたことでした。そして、流行る映画をみていると、「父親探し」「父性回復」をテーマにした作品が非常に多いことに気づき、この本の出版にいたります。

父親とはこうあるべきだ、という主張はありませんが、「父性」の要素を以下のように紹介しています。

  • 規範を示している
  • 尊敬、信頼されている
  • 「凄い」「そうなりたい」と思われている
  • ビジョン、理念を示している

海賊漫画『ONE PIECE』の主人公、ルフィを例にあげて、調和型のリーダーでも父性を備えていることを提唱しています。

私なりに「父性」を表すと、「リーダーシップ力」「コミュニティをまとめる力」です。

時代によって、求められる父性が変わってきているのだと思いました。

 

この本の主張

この本の主張をまとめます。

  • 父性と母性のバランスが大切
  • 強すぎる父性は、暴力や争いの原因となる
  • 父性獲得のためには「父親殺し」が必要(エディプス・コンプレックスの克服)
  • 父性とは、男性・父親に限るものではない
  • 父性をテーマにした作品が流行ってきたのは、喪失された父性をどこかでみんな求めているから

以上のような感じです。

ところで、この本で「悪い父親」の3パターンが紹介されています。

  • 強すぎる父親
  • 弱い父親
  • 普通の父親

強すぎても、弱くても、普通でもだめ。なんていうか、父親って難しいんだなって思いました。

 

「父親殺し」ができないとどうなるか

「父親殺し」というと物騒な名前ですが、心理学者フロイトが提唱したエディプス・コンプレックスの克服を意味する概念です。本当に殺すわけではありません。

「父親殺し」ができないと、父性を獲得できないために以下のような問題が表れるといいます。

  • 自分の意見をもたない
  • 尊敬、信頼されない
  • 「凄い」「そうなりたい」と思われない
  • ビジョン、理念を示せない

ここでいう「父親」は、父性の概念的な意味です。現代は、父性が喪失しがちで、「こんなふうになりたいな」と思えるような、越えるべき「父親」が存在しない。そのために父性を獲得できず自分らしい生き方を見失っている人が多いんじゃないかというのが本書の意見です。

「こんなふうにになりたい」

憧れの人はいますか?

 

この本の面白さ

この本の面白さは、何といっても「父性」という視点で映画を語る独自性です。

「精神科医と映画評論家」のように、2分野以上の知識を掛け合わせると、面白い独自性を発揮できますね。

「こんな映画やアニメの楽しみ方があるのか」

と、新しい楽しみ方を教えてくれることでしょう。

読んでいると、登場キャラクターの精神分析をしているような気持ちになってきます。

例えば、ホラー映画の『エクソシスト』を以下のように評論します。

娘リーガンの父親は不在。母親は仕事が忙しく家をあけることが多い。そんな状況でリーガンは精神に異常をきたします。

「私の愛情が不足していたからだろうか……」

と母親は悩みますが、悪魔の仕業だったことが判明します。

そこで登場するのが、「父性」を代表する神父2人。

悪魔と対決しますが、悪魔を引き連れて結局2人とも死んでしまいます。

悪魔がとれて正常になったリーガンの姿。「父性」の勝利のように思えるかもしれませんが、ラストシーンの雰囲気から違うと著者はいいます。

この作品ははじめて「キリスト教の敗北」を表現した作品だ、と。リーガンの父親は相変わらず不在で、家族愛の感じられないラストシーンだからです。

正直、ただのホラー映画としか思わなかったのですが、こんな見方もあるんだな、と思いました。

 

感想・読んだ後すること

著者が「究極の父性映画」という『ファイト・クラブ』をみてみようと思いました。

 

お読みいただき、ありがとうございました。

こちらの記事もどうぞ。

親との関係に悩んだ時に読みたい本と映画

コメント