ショートショート『アウターの4速』

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お元気ですか、かにかまです。

クリエイティブ・アボイダンスで小説を書いてみました。

まぁ、忙しくはないのですが。定期的に現実逃避したい気持ちになります。しかし、小説書くのって難しいですね。

お時間があれば、気晴らしに読んでみてください。『アウターの4速』というタイトルをつけました。

(フィクションです)

 

『アウターの4速』

あなたは、はじめて自転車に乗った時のことを覚えているだろうか。

最初は補助輪をつけて乗っていたこと。両親に支えられながら、補助輪を片方ずつ外していったこと。

はじめて補助輪なしで乗れたときの喜び。両親の笑顔。

人はいつでも、自転車に乗る必要がある。なぜなら、人に支えられ、成長し、成長を喜んでくれる人がいることこそ、生きる感動だからだ。時にはこけて、膝をすりむくかもしれない。しかし、かさぶたの後も、治ってしまえば良い思い出となる。

僕は今日も、一人で自転車に乗っている。喜んでくれる人がいるのかって? そうだね、いないね。もし、あなたが喜んでくれるならうれしい。そういうわけで、今日は僕の過去の話をさせてほしい。

当時、僕には毎日が誕生日のようだった。

生まれては生まれ、一晩寝てはまた生まれる。心の中の産声を聞いていた。人は皆、生まれたとき泣き声をあげる。だが、死にゆく時は様々だ。

死のない生に憧れていた。それは終わることのない歓喜のように思えた。

 

「う〜〜、トイレトイレ」

トイレを求めて全力疾走している僕の横を、一台の自転車がすり抜けていった。青いつなぎを着ているように見えたが気のせいだった。

その自転車は、公衆トイレを通り過ぎて交差点で止まった。サドルからお尻を上げて、片足をつく。細いタイヤに高いサドルが印象的な自転車だった。そのバランスは、つつけば崩れてしまうジェンガのようだ。だがそれよりも僕の気を引いたのは、乗り手だった。

上下ともにタイトな服装で、体のラインがはっきりとわかる。狭い肩幅に細いウェスト。腕は細いが、足先からお尻のラインは力強く、パワーを感じる。なにより僕の視線を集めたのは、胸のふくらみだ。いやらしい目つきで眺めていると、その乗り手は体を屈め、自転車のフレームから飲料のボトルを取った。

あぁ、自転車になりたい。十四歳。僕は死んだ。小便をもらしたのだ。

 

蟹江数馬。友人たちは僕を「かにかま」という親しみのある食べ物の名をもって呼ぶ。

「かにかま、残念だったな。外で小便もらすなんてな。まぁ話きく方にとっては面白いけどw」

小便をもらしたことが知られてしまってから、僕はいじられキャラとなっていた。友人の少ない私をいじるのは、幼なじみのBくらいだが。

Bとは、隣近所の付き合いがはじまりだ。よく魚釣りに一緒にいった。そんなBが、自転車競技部に入ったと聞いたのは高校に入ってからだ。

近所で練習している姿を見かけた。乗っているのは、かつて見たジェンガのような自転車だ。乗り手を除いては、以前と同じように僕の目を引いた。

「この自転車、15万円するんだけど、親父が持っててさ。お前も始めたらどうだ? ま、冗談だけど」

腹の立つやつ。将来ハゲる呪いをかけた。

Bは以前、バイオリンケースを持ち歩いていて、お金持ちな家なのだろうという印象はあった。弾いている姿は見たことがないが、お金持ちアピールのためだったのだろうか。「なんでそんなお金あるの?」と聞いてみたことがある。親が仮想通貨への投資で大儲けしたらしい。

Bに対して、嫉妬心を抱くようになったのはその頃からだ。ある雨の日、軒下で練習しているBを見かけた。ローラー台の上で自転車に乗っている。なんだか、回し車で遊んでいるハムスターみたいだ。Bのしんどそうな顔を見ると、少し幸せを感じた。「ラットレース、がんばってねー」

 

高校を卒業して、Bは県外の音大へ進学した。どうも、ヴァイオリニストを目指すらしい。僕はというと、地元の大学で化学を勉強する。

「まぁ、楽しんでやるよ。時にはこっち帰ってくるから」

全く世界の違う人になった感じだ。そんな友人にさらに嫉妬心を持つとともに、誇らしい気持ちもあった。

大学進学後、僕はアルバイトを始め、2年になる頃にはそこそこ貯金が出来ていた。成人式もあり、帰ってきていたBと話をした。

「アルバイトしすぎてさ。単位3つしかとれそうにない」「ははは、どんまい。まぁ、他人の不幸は蜜の味ってよく言うよね。おもしろいわーw」

やっぱりこいつ、将来ハゲろと思った。Bは大学でも、趣味で自転車を続けているらしい。いくつか自転車漫画を紹介された。最初は軽めのギアで回転数を維持すること。自転車を購入するなら、近所だとこのお店がおすすめ、など。

「隣の県でヒルクライムレースがあるから、来年出ようぜー」

紹介された漫画を読んでみながら、ちょっと憧れていたロードバイクに乗る自分を妄想してみる。ヒルクライム。公道を使って開催される、自転車で坂を登るレースだ。僕はロードバイクを買った。FELTのF75。アルミフレームにシマノの105コンポを積んだ完成車だった。店員さんが説明してくれる。

「乗り始めはみんなお尻が痛くなるけど、筋力ついてきたら痛くならなくなるから。ペダルを漕ぐ速度は1分間に90から110回転を意識してみて。ママチャリなんかと比べたら、かなり回転速いイメージだよ。ロードバイクってさ、人力で、速く、遠くに行けるように考えつくされてるシステムなんだ。例えばここ。後輪とフレームの隙間なんて1ミリないくらいでしょ? フレームのサイズにもよるんだけど、ギリギリの設計なんだよね。その性能をしっかり活かすためにも、軽く速く漕ぐようにしてね」

ちょっと乗ってみて、ということでローラー台に固定されたロードレーサーにまたがる。

「もう少し前傾して漕いでみて。そうそうそんな感じ。左のレバーが後ろブレーキとフロントギア切替。右のレバーが前ブレーキとリアギア切替ね。このコンポは、前がインナーとアウターの2段と、後ろ10段の20段切替。ただし、インナーで10速とか、アウターで1速とか使うとチェーンが斜めになって負荷かかりやすいから、あんまり使いすぎないでね」

基本的なギアの使い方としては、上り坂だとインナー、あとはアウターで大丈夫らしい。リアは適当だ。10速の中から1速選ぶことになる。ロードレーサーにまたがる自分の姿を鏡で見て、にやついた。

Bが地元に帰ってきたとき、何度かBと練習した。ギアの切替をどうしているかきいてみたことがある。

「かにかまに合わせてるから、大体アウターの4速。変速めんどいし。一人で走るときはもっとギアあげてるけどなー」

さりげない実力差アピールに、僕の脳内Bはさらにハゲた。

 

ロードバイクに乗り始めて、気付いたことがある。適切なギアは、乗り手の脚力と道路の状況で決まる。基準となるのは回転数だ。なるべく一定に保つことがパワー効率を上げる。遠くまで行こうと思えば、軽く漕げるギアにしておかなければならない。無理をしなければ回転数を維持できないギアを選ぶことは、体への負担が大きい。長く漕ぎ続けられないのだ。

ギアのメンテナンスも大切だ。特にチェーンオイルが切れると、パワー効率を最大10%ほど下げるという。このパワーロスは、速度が速くなるほど大きくなる。

人間も同じだと思う。

 

僕は来月、大学院を卒業し、大手企業の研究員となる。空は晴れていた。

今日も僕は一人で自転車に乗る。漕ぎ出すギアはいつもどおり。アウターの4速だ。

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